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音楽、映画、読んだ本のメモ帳です

冒頭には「美しい謎」を : 『書きたい人のためのミステリ入門』

ミステリ好きの知人がツイッターで絶賛していたので、読みました。

 

新井久幸『書きたい人のためのミステリ入門』新潮新書

 

書きたい人のためのミステリ入門

 

新潮社で新人賞の下読みを担当された編集者(現編集長)の方が、ミステリのお約束や書き方を解説する1冊。 

私は今のところミステリを書く予定がないので、まずはミステリのブックガイドとして楽しく拝読しました。

 

序盤から、「何はなくとも、まずは謎」のテーマで、いきなり島田荘司氏の「山高帽のイカロス」が出てきて驚きますが、その後も、「謎がなければ始まらない」と題して、クレイトン・ロースンの「天外消失」エラリー・クイーン「神の灯」*1、さらには法月綸太郎氏の「死刑囚パズル」北村薫氏の「空飛ぶ馬」と名作を次々に畳みかけるくだり、ミステリ好きにはたまらないものがあります(セレクトに偏りがなく*2、ネタバレもないので、安心して読めます)。

 

私も、本書に出てくるミステリはそれなりの数を読んできましたが、とくに膝を打ったのは以下のくだり。

 

泡坂妻夫のデビュー作「DL2号事件」(『亜愛一郎の狼狽』所収)は、恥ずかしながら、初めて読んだときには、良さがよく分からなかった。それまで読んで来たミステリとあまりに違ったため、楽しむためのツボが把握できなかったのだ。(中略)
だが、一度面白がり方が分かれば、他では絶対に読めない独特の味があり、癖になる。
(本書180-181ページ)


同感で、「DL2号事件」はほんとうに不思議な魅力があります。
王道のミステリをある程度読まれた方(つまりこの『書きたい人のためのミステリ入門』を読んでいるような方)ほど、より深く刺さるところがあるかと思いますので、未読の方はぜひ。

 

DL2号機事件

 

 

 

亜愛一郎の狼狽 (創元推理文庫)

亜愛一郎の狼狽 (創元推理文庫)

  • 作者:泡坂 妻夫
  • 発売日: 1994/08/12
  • メディア: 文庫
 

 

*1:私は1995年ごろにミステリを読み始めたのですが、いま思えば、そのころ新刊で出た、音羽系のノベルスのいくつかの作品は、クイーンの「神の灯」からの影響が顕著だったように思います。やはりクイーンは重要です。

*2:作品のセレクトを見ると、著者はおそらく私よりひと世代ほど上の方で、80年代に新本格を大量に読まれた世代の方なのだろうと思われ、プロフィールの69年生まれ、京大ミス研のくだりを見てなるほどと思いました。かつて雑誌で見かけた、京大推理小説研究会の部室の写真をふと思い出します(『BRUTUS』1996年5/15号の「偏愛的ミステリBEST100」の特集)。