冒頭には「美しい謎」を : 『書きたい人のためのミステリ入門』
ミステリ好きの知人がツイッターで絶賛していたので、読みました。
新井久幸『書きたい人のためのミステリ入門』(新潮新書)
新潮社で新人賞の下読みを担当された編集者(現編集長)の方が、ミステリのお約束や書き方を解説する1冊。
私は今のところミステリを書く予定がないので、まずはミステリのブックガイドとして楽しく拝読しました。
序盤から、「何はなくとも、まずは謎」のテーマで、いきなり島田荘司氏の「山高帽のイカロス」が出てきて驚きますが、その後も、「謎がなければ始まらない」と題して、クレイトン・ロースンの「天外消失」、エラリー・クイーンの「神の灯」*1、さらには法月綸太郎氏の「死刑囚パズル」、北村薫氏の「空飛ぶ馬」と名作を次々に畳みかけるくだり、ミステリ好きにはたまらないものがあります(セレクトに偏りがなく*2、ネタバレもないので、安心して読めます)。
私も、本書に出てくるミステリはそれなりの数を読んできましたが、とくに膝を打ったのは以下のくだり。
泡坂妻夫のデビュー作「DL2号事件」(『亜愛一郎の狼狽』所収)は、恥ずかしながら、初めて読んだときには、良さがよく分からなかった。それまで読んで来たミステリとあまりに違ったため、楽しむためのツボが把握できなかったのだ。(中略)
だが、一度面白がり方が分かれば、他では絶対に読めない独特の味があり、癖になる。
(本書180-181ページ)
同感で、「DL2号事件」はほんとうに不思議な魅力があります。
王道のミステリをある程度読まれた方(つまりこの『書きたい人のためのミステリ入門』を読んでいるような方)ほど、より深く刺さるところがあるかと思いますので、未読の方はぜひ。