small talk

音楽、映画、読んだ本のメモ帳です

青山真治『ユリイカ(EUREKA)』

Hello, Hello
Can you hear me?
Are your skies clear and sunny down there?
Even in this rain
The breath of the breeze is reaching me here

  - Jim O'Rourke / Eureka (1999)

 

私が映画をたくさん観るようになったきっかけの1本*1*2


今夜はこれを観返します。

 

 

*1:リアルタイムでは観れず、最初に観たのは、たしか前後編2本組のレンタルVHS。宮崎あおいの兄妹の家の、庭の盛り土に刺された筒から鳴る、尖った風切り音のシーンで前編が終わったような記憶があります。後に新文芸坐のオールナイトで通して観ました。

*2:当時、『カイエ・デュ・シネマ・ジャポン』のEUREKA特集号も何度も読みました。副題が「世界の始まりへの旅」で、これが後にオリヴェイラを観るきっかけに。

黒沢清『スパイの妻』

今ごろようやく、しかもNHK総合で放送されたものを録画して観ました。

 

公開時に国立映画アーカイブ岡田秀則氏が、「蒼井優がパテベビー9.5mmを必死で映写する映画」と定義していたのが気になっていましたが、実際に観るとなるほど。これは単にガジェット面での関心を超えて、この映画の本質を突いたコメントだったわけです。

 

そして、そのパテベビー9.5mmを提供したのは、京都のおもちゃ映画ミュージアムだったそうで。さすがです。

 

本作はBS8K用だったせいか、いつもの黒沢作品よりもルックが明るめ(そして逆光がやや多め)の造りでしたが、そんな中でもここぞというカットは陰惨で怖くて、ひとつ挙げるとすれば、蒼井優が甥に会うために有馬温泉を尋ねたときの、旅館から見下ろす甥のカットでしょうか。

 

岩波ホール閉館の報をうけて

悲しい知らせがいきなりやってきました。

 

私がここに足を運ぶときはたいてい満員だったのですが*1、記憶をたどるとやや高齢の方が多かったので*2、コロナ禍でその層の客足が遠のいてしまったのでしょうか。

 

7月の閉館までに、またお邪魔したいと思います。

 

*1:逆に空いていた記憶があるのは、2014年の『大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院』。静けさこそが豊かさである、こんな作品を上映できるのは、さすが岩波ホールです。

*2:2013年にここで観た『ハンナ・アーレント』や、2019年にやはりここで観た『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』がどちらも満席で、高齢の方が多かった記憶があります。とくに後者のときは前から2列目の隅の席しか残っておらず、後ろを振りかえると、50代以上と思われる女性が半数だったのには驚きました。フレデリック・ワイズマン監督の他の作品をアテネ・フランセで観るときは、女性はほぼ皆無なのですが。

ウェス・アンダーソン『フレンチ・ディスパッチ』予告編

ウェス・アンダーソンの映画がなかったここ2年は、『Accidentally Wes Anderson(邦題:ウェス・アンダーソンの風景)』という、遊び心に満ちた一冊を楽しみましたが、いよいよ本家が来ました。公開が楽しみです。

 


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エリック・ロメールをAmazonプライム・ビデオで

Amazonプライム・ビデオでエリック・ロメールの映画を観れることに気づいたのですが、期限が12/31までのようです。あと3日です。

 

後世への記録として書いておきますと、いま観れるのは、『レネットとミラベル/四つの冒険』*1、『緑の光線*2、『友だちの恋人』、『飛行士の妻』、『木と市長と文化会館/または七つの偶然』*3*4、『満月の夜』、『海辺のポーリーヌ*5*6*7、『パリのランデブー』、『美しき結婚』のようです。

 

 

Amazonプライム・ビデオで「ロメール」で検索した結果】

エリック・ロメール

 

 

時間がないのでどれか1本と言われると、『緑の光線』か、『海辺のポーリーヌ』でしょうか。12月にポーリーヌを観るのもすこし変な感じですが。

 

*1:『レネットとミラベル/四つの冒険』は、なんといっても第1話「青い時間」が最高です。冬の静かな朝にまたあの静けさを体験したいです。35分で観れます。

*2:緑の光線』はやはり「あの」ラストなのですが、配信だからといって飛ばしてラストだけ観るのはおすすめしません。それまでの90分があってこその、「あの」ラストです。

*3:『木と市長と文化会館/または七つの偶然』まで簡単にAmazonで観れてしまうというのもなんだか不思議な感じですね。私は大学生のころ、蓮實重彦氏の著作(たしか映画狂人シリーズのどれか)でこの作品を知り、観たかったのですが大きなTSUTAYAに行ってもソフトがなく、なかなか名画座でも出会えない中、NHKBS11でたまたま放送されてようやく観れた記憶があります。

*4:そういえば先月、国立映画アーカイブ岡田秀則氏が、港区立図書館で本作について上映解説をされたそうですが、どこかの媒体で文字起こしされたりしないのでしょうか。

*5:海辺のポーリーヌ』、Amazonプライム・ビデオに入っているのはリマスター版ではないようですが、5年ほど前にリマスター版を劇場で観たときは、当時ちょうどアーカイブに関心を持ちはじめていたこともあり、これは80年代前半のノルマンディーという街の、すぐれたアーカイブでもあると感じたことを覚えています。おなじノルマンディーの風景でも、一般の人が手持ちカメラで撮った記録映像の場合、その後にリマスターのお金は通常かけられないので、(現実に目でみるクリアな街並みではなく)古い機材の荒い画質になって人々の記憶に置き換わってしまうのですが、リマスターした映画であれば、1982年のノルマンディーに行ったかのような感覚、自分もあの海辺の道をポーリーヌたちと並んで歩いているような感覚がありました。

*6:海辺のポーリーヌ』に関して妙に印象に残っているのは、フェオドール・アトキン演じる色男の自宅のレコードの中に、なぜかフランク・ザッパキャプテン・ビーフハートの『ボンゴ・フューリー』があったことと、この男の家(ポーリーヌが寝た部屋)にはマティスの絵があったことです。本作が、この実は趣味のよい(?)色男については、たしかに(当然の報いとして)蹴り飛ばされはするものの、それ以上に特に痛い目にはあわず、基本的には器の大きな男として描かれているのに対し、パスカル・グレゴリー演じる「誠実な男」は、その器の小ささゆえに他の全員から一通りディスられているのでした。

*7:Amazonプライム・ビデオには入っていませんが、ポーリーヌ(アマンダ・ラングレ)が13年後に出演した『夏物語』もおすすめです。

『エラリー・クイーン 創作の秘密: 往復書簡1947-1950年』を読む

エラリー・クイーン 創作の秘密: 往復書簡1947-1950年』をすこしずつ読んでいます*1

 

エラリー・クイーン 創作の秘密: 往復書簡1947-1950年

 

このなかに、『九尾の猫』の梗概の話が出てくるのですが、次のくだりに驚きました。

 

君に梗概を送った翌日、ビルと私は映画に行き――『裸の街』を観た。もしこの映画を観ていなかったら、ぜひ観てほしい――殺人捜査の背景としてのニューヨーク市の映像的な処理を見てほしいのだ。実を言うと、梗概を書いているときは、『裸の街』のことは知らなかった。だけど、『裸の街』は、多くの細かいタッチを示唆してくれると思う。ニューヨークの通りに立つエラリーの周りに広がる典型的なニューヨーク市の風景―遊んでいる子供、頭上の高架鉄道の轟音などを。


ジョゼフ・グッドリッチ、飯城勇三訳『エラリー・クイーン 創作の秘密: 往復書簡1947-1950年』(国書刊行会、2021年)126pより

 

『九尾の猫』はマイ・フェイバリット・ミステリの1つですが、たしかにこの本で印象に残るのは、ニューヨークという「街」と、そこに住む「人」でした。人が「書き割り」ではないと感じる数少ないミステリの1つです。

 

ジュールズ・ダッシン監督の『裸の街』は、フィルム・ノワールの映画で、前々から観たいと思いつつ観のがしていた1本ですが、予告編*2をみると「街の映画」の雰囲気が濃厚そうで、観るのが今から楽しみです(とりあえずDVDを注文しましたので、続報は追って)。

 

 

*1:この本を知ったきっかけは、「ネコメンタリー」の有栖川有栖氏の回でした。

*2:公式の予告編が見つからないので、とりいそぎcriterionのDVD紹介ページへのリンクを張っておきます。

ジャン=ポール・ベルモンド追悼で『気狂いピエロ』を観る

RIP。今日はこれを観るしかありません。

 

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もう何回観たかわかりませんが、あらためてベルモンドを意識して観ると、彼のさりげない運動神経のよさが目立ちます。

ガソリンスタンドで取っ組み合いしたり、走る車の窓を開けて乗ろうとしたり、船にジャンプして飛び乗ったり、倒れた巨木のうえをバランスよく歩いたり。

有名な、車ですれ違い様のキスシーンも、よくよく考えるとなかなかすごいアクションです。

 

そして、この映画のとても厄介なところは、あのラスト直前の港に出てくる、「同じ歌がずっと頭の中を流れている」と訴える男*1

 

赤と青の原色とか、南仏の光とか、カットが斬新と思いながら観ていても、

 

ストーリーがよくわからないと思いながら観ていても、

 

アンナ・カリーナやベルモンドに惹かれながら観ていても、

 

どんなふうに観ていても、最後はあの港の男に、ぜんぶ持って行かれそうになります。

 

ただワンショットで固定で撮ってるだけ、ベルモンドも横でニヤニヤ聴いているだけ、それなのにあれだけエモーションがあふれ出してしまうという。

 

 

*1:ちなみにベルギーのコメディアンのRaymond Devosです(映画comの表記ではレイモン・ドボス

ハワード・ホークスの『男性の好きなスポーツ』が今ではDVDで観れてしまう

『大豆田とわ子と三人の元夫』の影響で、昔のロマンティック・コメディ、というよりハワード・ホークス監督の映画を観たくなっていろいろ調べてみると、『男性の好きなスポーツ(Man's Favorite Sport?)』(1964年)がいつの間にかDVD化されていたことを知り、さっそく入手しました*1

 

 

この映画については、たしか学生のころに蓮實重彦氏の『映像の詩学』でその存在を知り*2、それから20年間ずっと観たかったのですが、名画座でもほとんどお目にかかれず、このまま一生観れないかと思っていました。今ではなんでも簡単に観れてしまいます。

 

DVDを再生すると、ヘンリー・マンシーニによるオープニング曲*3が、こんな風に始まります。

 

ウズラを狩るのが得意な男もいる
ヨットが好きな男もいれば、ボクシングが好きな男もいる
(中略)
でも女性が現れれば、男は彼女を追いかけて、カールした髪に指を通すだろう
それが、この世界が始まって以来のやり方さ
男性の好きなスポーツ……それは、『女性』!

 

軽快なメロディに、いわゆるピンナップ・ガールの写真がコラージュされた洒脱なオープニングで、テーマは一目瞭然。ひょんなことから釣りの大会に出ることになった男性と、彼に優勝してほしい女性のドタバタ・コメディです。

 

ホークスの40年代の作品などと比べるとややゆったりとした作りですが、熊のギャグをはじめ、水槽に激しく落ちる灰皿、ピアノ博物館のいくらなんでも置きすぎのピアノ、救命具のギャグ、ドレスが破れるギャグなど「気持ち強め」のギャグが多くて、ゴキゲンな作りです(いまリメイクするなら、たとえば鈴木亮平さんと永野芽郁さんでしょうか)。

 

ラストは、予想もしなかった(文字通りの)驚天動地の展開から、唖然とするような「The End」になだれこみます。見逃していた方はぜひ。

 

*1:復刻シネマライブラリーによるDVD化

*2:大学で受けた映画論の授業で、同書所収のジョン・フォード論を読むように薦められて、手に取った記憶があります。

*3:リンクは張りませんが、本作の原題で検索すれば、動画サイトでも観ることができるようです。

フランソワ・トリュフォーの『恋のエチュード』の撮影に目を見張った

フランソワ・トリュフォー監督続きで、『恋のエチュード』(1971年)をDVDで。

 

これは脚本家の坂元裕二氏(『大豆田とわ子と三人の元夫』)が影響を公言している作品でもあります*1

 


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突然炎のごとく』が男2・女1だったのに対し、こちらは男1・女2の三角関係。

そしてここでも、3人が自転車で並走するシーンが印象的です。

 

撮影がネストール・アルメンドロスということで、あの切り立った崖の家を斜めから撮ったショットや、湖畔の家からボートで別れるショットなど、技巧を尽くした画面の連発なのですが*2、とりわけジャン=ピエール・レオーと、姉妹の姉のほうが椅子越しにキスするショットで、キャメラが振り返ると妹のサングラスに暖炉の火が写り込んでいるシーンには目を見張りました。

 

山田宏一氏が「世にも悲しい青春との決別の映画」と評した*3本作。ラストのレオーの一言までお見逃しなきよう。

 

 

*1:『脚本家 坂元裕二』(ギャンビット、2018年)27p

*2:なお編集技巧ということでは、アイリス・アウトの多用や、第一次世界大戦アーカイブ映像を効果的に使っている点も興味深いです

*3:フランソワ・トリュフォー映画読本』(平凡社、2003年)313p

フランソワ・トリュフォーの『突然炎のごとく』がまさかこんな話だとは思わなかった

ルビッチの『生活の設計』、そしてゴダールの『女は女である』と続けば、映画史的には次は当然これ*1、ということで、フランソワ・トリュフォー監督の『突然炎のごとく』(1962年)をDVDで観ました。

 


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実は初見で、あの鉄橋を3人で走る有名なシーンの印象から、てっきり青春の三角関係のような話かと思っていました。


途中のセーヌ川のシーン*2あたりから「これは何かおかしい・・」と思いながら観ていたのですが、まさかこんな話だったとは・・。

 

 

*1:『女は女である』にはジャンヌ・モローも一瞬だけ出演して、ジャン=ポール・ベルモンドから「ジュールとジムは?」と聞かれるシーンもあります(「ジュールとジム」は、『突然炎のごとく』の原題Jules et Jimから)

*2:このシーンの撮影の際に、ジャンヌ・モローが野次馬から煽られたエピソードも面白いです。山田宏一フランソワ・トリュフォー映画読本』(平凡社、2003年)118pを参照。